武器&武器外伝

右手にずしりとした感覚が生まれる。
腰に携えた鞘は微かに震えているものを持っていて、右手にしっかりと握られた刀からは、分からないくらいの量の赤黒く生臭い液体が徐々に伝ってくる。
それは右手だけでなく、次第に無臭だった空間までも同じモノと化していった。

視点が上手く定まらないまま視線を前方へと向けていくと、元人間だったであろう生物が微かに呼吸を繰り返しているのが目に映る。
不意に合った彼の目には、生にしがみつこうとするモノはなく、ただ真っ直ぐで曇りのないモノを映し出しているように思えた。
天地がひっくり返ったとしても、俺とは絶対に相容れない存在であることを示していた。

光を映さない瞳には、目先の瞳と、それを持っている存在自体が疎ましいものでしかなかった。
俺は右の口角をゆっくりと持ち上げてから、目先の存在の左胸目掛けて右手を突き刺すように振り下ろした。
身体と刀が触れ合うと、耳に響く鈍い音が無音の空間を覆った。
その瞬間、俺意外の存在が全て息絶えた。
その事実は、俺の心を満たすモノで溢れている筈なのに、目の前の血濡れた男の微笑んだような柔らかい表情が気を立たせる。

これでいい、満足だと言う気持ちを端から壊し、崩していくようで、俺は突き刺したままの刀を引き抜いて、表情を消し去るかの如く刀を振るった。
その度に自分の身体へ生臭いモノが染み付いていく。
こうでもしなければ、俺と言う存在が、この男に包み込まれてしまうような気がしたのだ。

幾度かこれを繰り返すと殆ど原形は留めておらず、見るに絶えないような形へと変わった。

それでも俺の中の何かは満たされていない。
この男の所為で、全てが無意味と化しているような気がしてならない。
しかし、その相手はもう生物だと言えるような綺麗な形ではない。
なのに、なぜこんな奇妙な感覚が生まれてしまうのだろうか。


俺は目標を見つけられないまま、真っ赤に染まった刀を振り上げた。




最後に怪奇な叫び声が数回響き渡ったあと、何かが切れたかのように全ての音が消えた。

2008.08.29. up.