禁止・命令

もう、やめよう

意識がはっきりした時、僕の目の前には真っ白でとても綺麗な顔をした女の人が、機械から引かれたたくさんの糸を体中に巡らせていた。
その顔には見覚えがあった。もし僕の記憶が間違っていなければ、目の前にいる女の人は僕の姉、だ。


姉と僕意外にも、母や父、兄が僕の隣に立って、顔を伏せながら姉を見ている。
その間、誰も言葉を口にはしない。
真っ白な部屋には、様々な奇妙な機会音があちこちから鳴り響いていて、たぶん、母のものであるすすりなく声と重なって頭の奥に刺さった。


僕は、大して幼くもないのに、この状況を未だはっきりと理解できなかった。
目の前には、たとえ奇妙な糸を張り巡らしていたとしても、眠っている時のような表情をした姉がいるのだから。
次の朝になれば、いや、姉のことだからお昼間際だろう、その時間帯になればいつものように目を覚まし、僕と会話を交えるのだと思う。

思いたい、ではなく思うのだ。


それを告げようと父の方を見ると、父は母の肩を抱きかかえながら言葉を搾り出すように呟いた。


──もう、やめよう。と。



母は一瞬目を見開いたあと、ゆっくりと首を縦に動かした。
僕の隣にいた兄も、母と同じように首を縦に動かす。


なら、僕は?


僕の口からも、行動からも、その答えは出ないまま、姉の身体からたくさんの糸が引き剥がされていった。
その光景を、僕は窓越しにじっと見つめているしかなく、これからは姉と言葉を交わすことも、笑い合うこともできないと言うのに、涙ひとつこぼれはしなかった。


それと同時に、僕の中の姉の存在は始めから無かったとでも言うように、ぽろぽろと剥がれ落ちていった。

2008.07.15. up.