漢字一文字10のお題

さぁ、目の前の糸を手繰り寄せてみなさいと木がざわめいた。
そしてそれを小さく丁寧に丸め取りなさいと風が囁いた。

何故かと聞いても返答をしない彼等に疑心暗鬼になりながらも、僕はゆっくりと糸を引き寄せ丁寧に包んでいく。
暫くすると、手の平に乗るくらいの丸い球が出来上がった。
そこへ今度は先程の工程を繰り返しなさいと水が波打つ。
その場に留まりながら繰り返していると、近くの花が一歩ずつ歩きなさいと僕を急かす。

耳から入ってくるのはそう言った指示語のみで、他の理由で話し掛けてくることはない。
話し掛けられていると言うよりも、どちらかと言うと命令されているようなものだが、そんなことはどうでもよかった。
繰り返していくうちに、僕はそれに夢中になっていたのだ。

手繰り寄せてはそれを丁寧に丸め取って、その後に一歩足を進める。
先に何かが見える訳ではないのだが、確実に何かに近づいているような気がした。
それに、先に何かがあるのだと思うと、自ら進んで糸を丸めていきたくなるのだ。

引いては丸め、進むと言う単純な行為の繰り返し。
それでも確かに僕は何かに近づいている。


下を向いてばかりいた所為か、額が何かが当たったことに気づいたのは、糸が身体を持ち上げるような状態になっていたから。
僕はゆっくりと顔をあげてから立ち上がって、それが何かをじっと見つめる。

何なのかは分からなかったが、最初の目的に辿り着いたようだ。
僕はそのまま、目の前に佇む形と重なりあうように、中に入りこんだ。

ここからが、また新たな糸紡ぎの始まりである。

2008.09.14. up.