海に見る10のお題

母の呼び声

遠くで、誰かが僕を呼んでいる声が聞こえる。
けれど、それは右からなのか左からなのか、それとも前からなのか後ろからなのか、どこから僕を呼んでいるのか分からない。
僕は、どこから声がするのか検討もつかないまま、一歩足を踏み出した。

すると、僕を呼ぶ声が少しだけ近づいたような気がした。
けれどもまだ、どこから僕は呼ばれているのかは分からない。

仕方なく僕は足を進めていく。
その間、声は遠ざかったり近くなったり、一歩一歩足を進めることで変化していく。


一体僕はなぜ名前を呼ばれているのだろう。
確かにこの声には聞き覚えがある。……ような気がするのだが、それが誰かは思い出せない。
いくら歩いたかも分からない状況で、声もまばらに聞こえる中、僕はその場に座り込んだ。
これはまるで迷路をしているみたいである。

しかしそれなら、必ず出口があるのではないだろうか。
そこへ辿りつくことさえ出来れば、きっと誰が僕の事を呼んでいるのかも分かるのではないか。
そう考えると無意識に体を起こしていた。

僕はまた迷路のように入り組んだ道を歩き出す。
声は勿論止むはずもなく、どこからか聞こえ続けている。
あぁ、本当にコレは出口が用意されているのだろうか。
そう思いながら僕はまた一歩足を踏み出した。
すると、とてつもなく大きく気持ち悪い音が耳を通り抜けた。
その瞬間、僕の体の中の全てを持っていかれたように軽くなり、意識が消えかかっていることに気付いた。

このまま僕はどこへいってしまうのだろう。
僕の頬にポタリと一粒、滴が垂れた。

2008.07.24. up.