海に見る10のお題

沈んでいく

水道の蛇口を捻り、勢いよく流れ出す水を両手で救いあげて顔の表面へと持っていく。
両手から水が弾け飛ぶと、風が身体をすり抜けていかなくてもとても気持ちがいいと感じる。
それを数回繰り返したあと、首元からかけていたタオルで顔を覆って、表面に張り付いている水分を全て拭いあげ、息を吐いた。
気持ち的にはとても気分が晴れやかになるが、身体にぴったりと張り付いている薄い布の所為で、それは直ぐに消え去ってしまった。

それに加えて、上から全身を焼け付くそうとするヤツもいる。
だからか、涼しさを帯びていたものが全て取り払われてしまい、始めとなんら変わらない状態になってしまった。
抵抗するように、細長い容器の中身を身体に染み込ませてみるが、さほど変わりをみせなかった。

このままではヤツに全てを奪われて、埋もれてしまいそうだ。
そう思いながら天を見上げてみるが、身体に当たる熱に馬鹿にされているような気分に陥ってしまった。
ただでさえヤツに苛立ちを覚えているのに、これでは一層憎さが増してしまうだろうと水道から離れてみる。

小さなテントの中に潜り込んでみたもが、それでも自分を追い掛けてくる。
どこへ逃げ込んでも捕らえられてしまう。
もう一度ヤツを見上げてみようとしたが、やめた。
きっとそんなことをしても意味がない。
嘲笑うように見下され、それに苛立ちを覚えて終わり。

これの繰り返しだ。


自分が追い掛けても決して届くことはないのに、ヤツはそれを簡単にやり遂げてしまう。
自分にはできないのに、いとも簡単に成し得てしまうヤツがずるくて仕方ない。


今更こんなことを考えても仕方のないことだ。
自分にはできず、ヤツにはできると最初から決められてしまっているのだから。
それならこんな風に避けてしまわず、全てを受け入れてしまおうではないか。


ヤツの挑発に飛び乗るように、遮られた場所から飛び出して、もう一度天を仰いだ。

なぜだか少し、ヤツに近付いたような気分になるのは気の所為だろうか。

2008.07.31. up.