10の場所お題

映画館

小さくため息を吐いたあと、手の内に握られた2枚の紙に視線やる。
強く握り締めていた所為か、少し湿気を含んで皺を寄せているのがわかる。
もう一度ため息を吐き出したあと、今度は目の前に映し出されている映像に顔を向ける。
映像には雨の中泣き崩れている女の人が映っていて、女の人の前には男の人が立っている。
見るからにこの内容はかなりの恋愛ものだと言うことが分かる。
しかもそれを見るために席についているのは私だけ。

渡し損ねた紙に力を入れて握り締めると、先程よりも形を崩してしまった。
その様子が私を馬鹿にしているようで、最終シーンに差し掛かっているのであろう映像も頭には入ってこなかった。
周りには人で埋め尽くされている座席が広がっているのに、映像と自分だけがそこにあるような気がする。

結局、私はしっかりとその映像を目に焼き付けることなく終わりを迎えてしまった。
それが分かったのは、場内のライトが徐々に明るくなり、埋め尽くされていた座席が殆ど空白になっていたからだった。
その光景が痛いほど身体に突き刺さってくる。
まるで、今の私みたいではないか。

何か分からないが、今の私は私ではないような気がする。
大切なものが穴を開けるようにぽっかりと空間を生み出している。
ヒールのある靴で床を蹴り飛ばしてみると、カツンと音を立てて場内に反射し元の場所へと帰ってくる。
それもまた、ぽっかりと穴を開けた身体と同じようで、気付くとまたため息を吐き出していた。

ここでずっとこうしていられる訳もなく、係員に声をかけられた私は鞄を下げて座席から立ち上がった。
床を歩いていくと、交際するライトがヒールに反射してとても眩しいと感じる。
それと同時に、この光は自分には不釣り合いだとも感じた。

場内の入口で振り返ると、それはもう本当になにもなく、ただ広い空間だけを作り上げていた。
少し前まではあんなにも埋め尽くされていたのに、何もかもがなくなってしまった空間は、「寂しい」という形容詞がぴったりと当て嵌まった。

そんなことを考えながらその場で立ち尽くしていると、次の上映が始まろうとしているのか、私を通り越して人が中に入っていく。
こんな風に、徐々に全てが埋め尽くされていくのだろう。
そして、それぞれから溢れ出す沢山のもので場内は暖かくなっていく。
これはほんの一瞬のことなんだろうけど、それがなんだか羨ましく感じた。


私の中でぽっかりと開いてしまったものは、この先温かいもので溢れることもなければ、埋まることもないだろうから。

2008.08.03. up.