10の場所お題

学校

目の前の景色が勢いよく流れていく。そして後ろには私を追い掛けてくる人だかりが沢山。
横を見れば応援する声すら聞こえてくる。
私は追い掛けられているのだ、沢山の鬼たちに。

なぜかこの学校には「全校鬼ごっこ大会」と言うのが存在する。
それは恒例行事となっているらしく、有無を言わせず全員参加。
しかもただの鬼ごっこではなく、残った生徒数の多かったクラスには文化祭で模擬を開くための最良の設備と資金、そして賞金が用意されているらしい。
しかし大半が制限時間内に捕まってしまい、未だそれが実行されたことはない。
それなのに生徒は飽きずにこの行事に参加するのだ。

無駄だと分かっていても参加する生徒は馬鹿だと思うが、この意味の分からない行事を考えた校長にも呆れてしまう。
しかしもっと馬鹿なのは、クラスの面子に圧倒され、欠席することもできずに参加してしまっているこの私。
しかも困ってしまったことに、残り数名という中に私も含まれてしまっている。
最初に大人しく捕まっておくべきだったのかもしれないが、数ある大きな大会で結果を残している以上、走ることに対してのプライドがそれを許さなかったのだ。

それを捨ててしまえなかったのが運の月、どれだけの人数がいるか分からない大群に、こうして追われ続けているのだ。
なら今からでもリタイアしてしまえばいい話なのだが、ウチのクラスの委員長にはとてもじやないが逆らえない。
私を見る目はとても恐ろしく、わざと捕まろうとすれば、あとにはとてつもない罰が待っていることには違いない。
とにもかくにも、この行事に参加することになってしまった以上、私に逃げる術は用意されていないのだ。

唯一救いだったのは、同じクラスでサッカー部に所属しているエースが残っていること。
彼には逃げる上で何度か助けて貰っている。
もし彼がいなければ既に捕まっていたかもしれないが、それはあくまで私の中の考え。
もし残っているとなれば、味方がいないよりもいた方が断然気が楽になるだろう。
だから彼だけでも残っていてよかったと思う。

そんなことを考えながらも、私は後ろから追ってきていた鬼たちを上手く撒いて、物影に隠れた。
たまに近くを通りかかる足音も聞こえたが、その瞬間は息を潜めてやり過ごす。
ひとまず落ち着ける場所を確保できたのは幸運なことだった。
運が悪ければ、制限時間がやってくるまでひたすら走り回らなければならない。
いくら大会で結果を残しているとはいえ、さすがにそれでは体力が持たない。
物影となっている壁にもたれ掛かって、肌身離さず身につけている時計に目をやり、残り時間を確認する。
するとどうやら残り時間はあと10分をきっているらしい。


少し足音が焦りをみせていたのはこの所為だったのかと、妙に納得がいった。
このままでは見つかってしまうのも時間の問題である。
少なくとも、2分後にはこの場所を離れなくてはならないだろう。
時間的に見積もって約5分間は全速力で走り続けなければならない。
体力的には問題はないが、いつ、どこから鬼が現れるかも分からない状態で、この時間を逃げ切れる自信は殆どない。
……しかしやらなければならないのだ。

私は足音が消えていくのを見計らって物影から飛び出した。 もちろん直ぐに見つかって後を追い掛けられる。 どこに逃げるのがいいかと考えながら校庭を走り抜けると、何やら異常な歓声が飛び交っているのが分かった。
その瞬間、こうして逃げているのはもう自分しかいないのだと理解し、私は校舎の方へと足を早める。
幸い校舎前には鬼がおらず、なんなく入り込むことはできたが、後ろを追い掛けてくる人数は増すばかり。
階段を一階分だけかけあがり時計を確認すると残りは30秒をきっている。
この廊下を突っ切って校舎を駆け上がれば逃げ切ることが可能かもしれないと、私は校庭側に位置する廊下を駆ける。
しかしそうも簡単にはいかないようで、反対側からも鬼の姿を捕らえることができた。
もしかして、最後の最後で捕まってしまうのかと焦っていると、校庭から声がかけられる。


「……飛べ!」


思わず私は声のした方に目を向けた。
私に飛べと催したのはサッカー部エースの彼。
しかも俺の方へ飛べば受け止めてやるとでも言うように、両手を広げている。
残り10秒をきり、鬼はもう目前。私は窓に足をかけ、2階の高さから飛んだ。

どさりと言う音と共に終了だと言うことを示すブザーがなる。
私はこの行事初の生還者となった。


文化祭の最良設備たちは手に入ったが、結局、私と私を受け止めた彼は一週間の怪我を負うはめになった。
本当にこの行事は馬鹿げている。
……しかし、無駄ではなかったのかもしれないと思う自分がいたのも気の所為ではない。

2008.08.06. up.