図書館
扉を開けるとひんやりとした空気が体に触れて周りへと逃げていった。
いつもなら温い空気に招き入れられるのに、今日はどうしたのかと足早に入口を通り中を見渡す。
普段となんら代わり映えのない景色だったのだが、ある一点をよく見てみると窓が開けっ放しにされたままだった。
前の当直だった人が、気付かずにそのまま帰ってしまったのだろうと、窓の前まで進んでいき鍵をかけた。
このひとつの窓だけで、こんなにも空気が変わるものなのかと不思議と感心してしまった。
タイトルの頭文字順に並んである本や、整えられて綺麗に設置されている机や椅子、受付をする為に置かれた道具や機材、これらがあるこの場所がとても私を魅了するのだ。
その中でも、薄いカーテンが引かれたままになり、少し薄暗く感じさせる雰囲気が、格別心を落ち着かせる。
誰もこないであろう時間帯に当直を勤めるのは、この空間を独り占めできるからで、他の誰にも譲りたくはない。
それだけでなく、太陽が少し沈みかけた時間帯にこの部屋の中から外を見渡すと、遠く広がる水平線が赤い色を混ぜて綺麗に揺らめいているのを見ることができるのだ。
この事実を知っている人は極僅かだろう。
そうでなければこの場所がこんなにも静かでゆったりとした空気を流している筈がない。
私は窓から一番近い場所にある椅子に腰をかけて、外をじっと見つめる。
やはり何度見ても飽きることがないくらいこの景色は美しいものだと思う。
このままずっと、誰にも気付かれることなく景色を自分のものだけにできれば幸せだろうと思う。
私がここを去り行くまでの残りの時間は、どうか誰もこの景色があることには気付かないで。
そう願いつつも、それができないことに空笑いを浮かべてから、ドアを叩く人影に向かって声を投げた。