変幻自在10days
声にならない言葉を聞かせて
遠い昔にどこかで聞いたあの歌声が僕の中から離れずに、ずっと張り付いたまま。
月が真ん丸になって世界を見下ろし、薄い雲がちらほらと浮かんでいるような夜の日には、なぜかその声を鮮明に思い出す。
まるで、月がその音色を奏で出しているかのような、そんな気分でいっぱいになる。
きっと、僕の中に存在する歌声とこの夜の景色がリンクして、無意識に引き起こされているのだろうけど、とても身近にあるような気になる。
誰のものでどんな人なのかも全く分からないのに、どうしてもこの歌声を自分のモノに出来ればいいのにと考えてしまっている。
遠い昔に張り付いたままの記憶が、僕の中の何かを掻き立てているようで仕方がない。
それを自分の手で止めてしまうことなど到底できるはずもなく、ただ曖昧な記憶の中に入り込んでしまったまま。
一度入ってしまうと出てこられなくなってしまうのか、僕はずっとそこに留まったまま。
この歌声を耳の中へ招き入れた時から、僕の中の時間は止まってしまったのかもしれない。
ずっとこのままの状態で、真ん丸な月と薄い雲が夜空に描かれると、僕は必ずそれらを見上げて記憶をたどる。
きっとこの先も、自分の元へやってくることはないのに、待ち続けているかのように同じ行動を繰り返す。
それはまるで、何かに取り憑かれてしまったように、支配を受けているようでたまらなくなる。
だが、心のどこかでは、支配されても尚この歌声を手に入れたいと思っているのだ。
手掛かりのない、この魅了された歌声だけを追い求めて、僕は全てを空に捧げた。
2008.08.22. up.