変幻自在10days
見えない距離の観測
必ず一歩退いたところから私は視線を送っている。
そうすれば、彼もまた一歩退いたところから視線をくれる。
それに笑顔を作り出してみせれば、彼も同じように笑顔を向けて、それに加えて手を振る。
擦れ違うほんの僅かな時間。
この瞬間だけは、私と彼が繋がっているのだと実感できる。
ただそれだけの流れが、とても愛おしく感じて、反面切なくも感じるのだ。
だが、この一連の流れが終わると彼の視線は私から直ぐに外されて、違うところへと向く。
私が彼の視界の中に入り込めるのは、本当に刹那の時間でしかなくて、後の残りの時間は蚊帳の外でしかない。
一日に数回あるかないかのこの時間だけが、彼との繋がりで、それ以外は他の人のモノでしかない。
後の時間は遠くから視線をやるだけで、その視線に彼が気づくことはない。
身近にあるモノだけを中に入れ込んで笑顔を浮かべている。
その中に入り込んでいくだなんて、私には到底不可能なこと。
彼を見ているのは私だけではない。
大勢の人が彼の視界に入りたがっていて、自ら飛び込んでいく。
もし私が同じようなことをしたとしても、周りの人間と同じように扱われてしまうだけ。
それなら今の状態の方がよっぽどいい。
擦れ違う瞬間だけは彼の視線は私だけのモノで、きっと特別。
一線を飛び越えて、集団とまとめられるくらいなら、視界に入り込めることが少なくても、コチラの方が幸せだと思えるのだ。
今もまた、彼が私の反対側からやってくる。
用意していたように視線を送ると、彼は柔らかく微笑んで、私を通り過ぎた。
2008.08.25. up.