ビール一杯
上機嫌で缶を口にしようとする彼に、僕はソレを寸前で取り上げて溜め息を零した。
行き場をなくした手をテーブルの上に置いてから、僕の手に納められた缶を恨めし気に睨み付ける彼。
そんな彼の視線を無視して、僕は机に手荒に置かれた、中身の無くなった缶をさすと、舌打ちをしてそっぽを向いた。
「ちょっと、これどーいうこと?」
「何が?」
僕はテーブルの前にしゃがみ込んで、手に持っていた缶を机に置くと、転がっている缶を並べて彼に見せる。
それでもしらを切る彼に、僕は苛立ちながらも彼に言葉を吐いた。
「何が? じゃない。言ったよね? 1日コップ1杯分しかダメだって」
「そうだっけ〜?」
酔っているのか、それとも酔った振りをしてコノ場を乗り切ろうとしているのか、彼は床にゴロンと寝転がって僕の目を見ようとしない。
こんな時はかならず彼が嘘をついているのだと分かる。
僕は彼の頭を力任せに叩いた後、服の襟を持って身体を起こさせる。
「誰が面倒見てると思ってるの? 今度約束破ったら、これもう飲ませないからね?」
そう言うと彼は僕のことを軽くあしらってからまた床に転がりこんで、僕とは反対の方向を向いた。
全く聞く耳持たずの彼になにを言っても変わらないと思い、今回はこのままほっておくことにした。
この前も、今日も、僕との約束を守ってくれないことには不満を感じるのだけれど、彼から聞こえてくる寝息を聞いて笑みが零れる。
彼の生きがいを取ってしまうのは申し訳ないけれど、それで彼の命が繋がるなら僕はきっとこれを止めないだろう。
彼とビール1杯なんて比べようがないけれど、彼にとっては自分のモノよりも大事なのかもしれないと、今更になってなぜかそう、思ってしまった。