routineお題-仕事編

明日のために

真っ暗闇の中にぽつんと佇む、まん丸な月の下で、青年は小さな切り株に座りながら歌を紡ぎだしていた。
その歌は一定の音程を保ったまま綺麗に流れていて、傍に人を寄せ付けないよう魔法をかけられている気分になる。


歌は人を寄せ付けないかわりに、僕が傍まで近づくと、必ずその青年は気配に気付いて口を閉じる。>
しかも、僕の方を振り返るのは、彼の口から紡ぎだされる曲のある部分に差し掛かる時で、それまでは気付いていたとしても、決して僕の方を振り返ることはしない。


何が彼をそうさせているのかなんてことは、僕には分からない。
けれど、彼の、僕を見つめる表情を見ていると、何かを忘れてしまっているような気がして仕方がなくなる。

この感覚は僕の気のせいなのかもしれないけれど、なぜか、そんな事を考えてしまうのだ。


やはり僕は、何かを忘れてしまっているのかもしれない。


だから彼は、歌を紡ぎだしたあとに僕を見て、とても悲し気な表情を浮かべるのだろうか。



そこまで考えてみても、やはり僕には分からない。



ただ、僕の行き着く先に、必ず彼の姿がある。

それはまるで、僕に何かを指し示しているかのように。



僕と、彼と、彼の口から紡ぎだされる歌に、必ずそこにある真ん丸い月。
それの意味を見つけ出す前に、空が全てを飲み込んだ。



これでまた、僕の中から何かがリセットされて、冷たい風が何かを次へと持ち越すように流れていった。

2008.06.19. up.